学校で161万人の情報漏えい。原因の8割はサイバー攻撃ではなく「うっかり」だった

なぜ防げない？漏えい原因、驚きの8割は『うっかりミス』

衝撃の数字が示す現実

ISENが公表した2024年度の報告書は、教育現場の厳しい現実を突きつけました。報告された漏えい事故は247件、影響を受けた個人情報は約161万人にのぼります。しかし、本当に衝撃的なのはその内訳です。漏えい原因の実に8割が、USBメモリの紛失や置き忘れ、メールの宛先間違いといった教職員による人為的なミスだったのです。高度な技術を持つハッカーによる攻撃よりも、日常に潜む「うっかり」が、はるかに大きなリスクとなっている。この事実は、多くの保護者にとって予想外のものではないでしょうか。

デジタル化の裏側に潜む落とし穴

では、なぜこれほどまでに基本的なミスが後を絶たないのでしょうか。背景には、GIGAスクール構想に代表される教育現場の急速なデジタル化があります。タブレットやクラウドサービスの導入は、教育の可能性を大きく広げました。しかしその一方で、多忙な教職員が新しいツールやセキュリティルールに習熟する時間が不足しているという課題も生んでいます。便利なはずのデジタル機器が、たった一つの不注意で大量の個人情報を危険に晒す凶器にもなり得るのです。この「便利さ」と「リスク」のギャップこそが、うっかりミスを誘発する温床となっています。

しかし、問題は内部の「うっかり」だけではありません。気づかぬうちに、外部から巧妙な罠が仕掛けられているのです。

狙われる学校の『弱点』―外部委託先という死角

思い出の写真が流出？身近に潜む危険

学校が直接攻撃されなくても、情報は漏れてしまいます。その典型例が、茨城県つくば市の中学校で起きた事件です。このケースでは、学校自体ではなく、学校行事の写真を販売していた外部の委託先企業が不正アクセスを受けました。保護者にとっては、子供の成長記録である大切な写真が、外部の業者を通じて危険に晒されていたことになります。これはサプライチェーンを狙った攻撃の典型です。学校本体のセキュリティが強固でも、取引先のセキュリティが甘ければ、そこが「弱点」となり、結果的に生徒や保護者の情報が流出してしまう。もはや学校内だけの対策では不十分なのです。

大学も標的に、巧妙化するサイバー攻撃

攻撃はより巧妙化し、大規模になっています。2025年11月に発覚した東海大学の事例は、その深刻さを物語っています。攻撃者が狙ったのは、大学のネットワーク管理を請け負っていた外部の委託先でした。この委託先がランサムウェア攻撃を受け、管理していた複数の大学のサーバーに障害が発生しました。写真販売業者のような特定のサービスだけでなく、教育機関の根幹を支えるネットワークインフラそのものが標的とされたのです。この事例は、委託先との契約内容だけでは防ぎきれないセキュリティ脆弱性のリスク管理の難しさを浮き彫りにしました。

内部のミスと外部からの攻撃。この二重のリスクに、私たちはどう立ち向かえば良いのでしょうか？

我が子の情報は守れるか？今すぐできる2つの対策

鍵は『内部の意識改革』―ルールから文化へ

まず取り組むべきは、原因の8割を占める人為的ミスを防ぐことです。そのためには、教職員一人ひとりの意識改革が不可欠です。年に一度の形式的な研修だけでは不十分。情報資産を扱う際の具体的なルール（例：個人情報を含むUSBメモリの持ち出し禁止、メール送信前の宛先ダブルチェックの義務化）を定め、それを日常業務に定着させる必要があります。重要なのは、ルールを「やらされ仕事」と捉えるのではなく、「生徒を守るための当然の責務」として、組織全体の文化にまで高めていくことです。セキュリティ意識を、交通安全教育と同じくらい当たり前のものにしていく地道な努力が求められています。

『外部のリスク管理』を徹底する

次に、外部委託という「死角」をなくすことです。業者を選定する際には、価格やサービス内容だけでなく、セキュリティ対策が信頼できるレベルにあるかを厳しくチェックする必要があります。例えば、第三者機関によるセキュリティ認証を取得しているか、過去に事故を起こしていないかなどを確認することが重要です。さらに、万が一事故が起きた際の責任の所在や対応フローを、契約書で明確に定めておくことが不可欠です。これにより、委託先に緊張感が生まれ、セキュリティ対策への投資を促す効果も期待できます。「安かろう悪かろう」では、最終的に生徒と保護者が犠牲になることを肝に銘じるべきです。

保護者が今日からできること

学校任せにせず、保護者自身が行動することも大切です。まずは、子供が通う学校のウェブサイトなどで、個人情報保護方針が公開されているか確認してみましょう。どのような情報を、何のために集め、どう管理しているのかを知ることは、関心を持つ第一歩です。また、保護者会などの機会に、学校の情報セキュリティ対策について質問してみるのも良いでしょう。保護者からの関心が高まることで、学校側の意識も向上します。大切な我が子の情報を守るために、保護者も「当事者」として積極的に関わっていく姿勢が今、求められています。

今後の焦点は？デジタル時代の学び舎を守るために

学校での161万人という情報漏えいは、デジタル化の恩恵とリスクが表裏一体であることを示しています。原因の8割を占める「うっかりミス」と、巧妙化する「外部委託先への攻撃」。この二つの脅威への対策は、もはや待ったなしです。今後の焦点は、急速に進む技術の進化に、人間の意識と組織の体制がどう追いついていくかにかかっています。鍵を握るのは、学校、保護者、そして委託先企業が一体となってセキュリティ意識を高め、具体的な対策を講じていくこと。あなたの子供が通う学校は、大切な情報を守る準備ができていますか？未来の学び舎を守るための対話が、今まさに始まっています。