リモート人気なのに「出社率81%」。生産性7割向上させた企業の秘策

なぜ今、「出社」が再評価されるのか？

「リモートか、出社か」。この数年、私たちの働き方をめぐる議論は続いています。一時はリモートワーク一色に染まるかと思われましたが、ここにきて「出社の価値」を再評価する動きが急速に広がっています。その背景には、AI時代の到来が大きく関係していました。

AI時代に「替えのきかない人材」になる鍵

AIの進化は目覚ましく、多くの定型業務を代替しつつあります。では、人間にしかできない仕事とは何でしょうか？その一つが、対面での複雑なコミュニケーションから生まれる非定型な業務です。相手の表情や声のトーンを読み取り、場の空気を察しながら信頼関係を築く。こうした人間的なスキルは、AIには真似のできない領域です。出社という環境は、まさにこの「替えのきかないスキル」を磨く絶好の機会を提供します。何気ない雑談から相手の人柄を理解し、共に課題に取り組む中で生まれる一体感は、個人の市場価値を飛躍的に高める「見えない資本」となるのです。

偶発的な出会いがイノベーションを生む

「廊下での立ち話から、画期的なアイデアが生まれた」。こんな経験はありませんか？リモートワークでは計画された会議が中心となりがちですが、オフィスには予期せぬ出会いが満ちています。これをセレンディピティと呼びます。違う部署の同僚とのランチ、給湯室での何気ない会話。こうした偶発的なコミュニケーションこそが、新しい視点や創造性の源泉となります。組織の壁を越えた知識の共有は、イノベーションの土壌を育み、企業の成長を加速させる重要な要素なのです。

では、この「出社の価値」を最大化するために、企業は具体的に何をしているのでしょうか？驚きの事例を見ていきましょう。

驚異の出社率81%！KDDIがオフィスを「実験場」に変えた秘策

「出社は義務ではなく、権利だ」。そんな考えのもと、オフィスのあり方を根本から見直したのが、大手通信会社のKDDIです。同社は、ただ出社を促すのではなく、「社員が行きたくなるオフィス」を作ることで、驚くべき成果を上げています。

オフィスを「コラボレーションの実験場」へ

KDDIの戦略はシンプルです。オフィスを単なる作業場所ではなく、社員同士のコラボレーションを促進するための「実験場」と再定義しました。具体的には、社員が自由に集まって議論できるオープンなスペースを拡充し、最新のデジタルツールを導入。一方で、一人で深く集中したい時のための個室ブースも完備しました。目的は、社員がその日の業務内容に応じて最適な環境を選べるようにすること。これにより、オフィスは「行かされる場所」から「目的を持って行く場所」へと生まれ変わったのです。

体験価値の向上が生んだ驚きの結果

この取り組みの結果は、数字に明確に表れました。KDDIの出社率は、部署にもよりますが平均で81%に達しています。これは、多くの企業が出社率の低下に悩む中で、異例の高さです。さらに重要なのは、社員の約70%が「生産性やアウトプットの質が向上した」と実感している点です。出社が強制ではなく、ポジティブな体験価値と結びつくことで、社員のエンゲージメントが高まり、結果として企業全体の生産性向上に繋がった、まさに理想的なケースと言えるでしょう。

しかし、すべての企業がKDDIのように成功するわけではありません。画一的な出社強制には、大きなリスクも潜んでいます。

一方で…「出社義務化」が招く光と影

出社の価値が再評価される一方で、働き方の柔軟性を求める声も根強く残っています。企業がこの現実を無視して一方的に出社を義務化すると、思わぬ副作用に見舞われる可能性があります。

優秀な人材ほど流出するリスク

「週5日出社」を義務付けた途端、優秀な社員から辞表が提出された――。これは、今や珍しくない話です。特に高い専門性を持つ人材は、働く場所の自由度を重視する傾向があります。一方的な出社義務化は、彼らにとってキャリアの魅力を損なう要因となり、結果として人材流出につながるリスクをはらんでいます。厳しい人材獲得競争が続く現代において、働き方の柔軟性は、もはや福利厚生ではなく、企業の競争力を左右する経営戦略の一部なのです。

解決策は「多様なキャリアパス」

では、企業はどうすればよいのでしょうか？答えは「二者択一」からの脱却です。出社かリモートか、という単純な対立構造ではなく、社員一人ひとりのキャリアプランやライフステージに合わせた多様な選択肢を用意することが求められます。例えば、住宅設備メーカーの大建工業は、キャリアコースを5つに分け、働き方の選択肢を増やす「キャリア複線化」を導入しました。これにより、社員は自身の目指すキャリアに応じて、転勤の有無や働き方を自律的に選択できます。こうした個々のキャリア自律を支援する制度こそが、これからの時代に求められる解決策なのかもしれません。

これからどうなる？私たちが選ぶべき働き方

「出社率81%」の成功事例と、「出社義務化」のリスク。この二つの現実は、私たちに重要な示唆を与えてくれます。もはや、出社とリモートは対立するものではなく、目的や業務内容に応じて賢く使い分ける「ハイブリッド」の時代なのです。オフィスは単なる作業場所から、仲間と共に新しい価値を生み出す「共創と学びの場」へとその役割を変えつつあります。鍵を握るのは、画一的なルールを押し付けるのではなく、企業と個人が対話し、最適なバランスを見つけ出すことです。あなたの会社、そしてあなた自身は、どのような働き方を選びますか？未来の働き方を考える上で、今が大きな転換点なのかもしれません。