石川でインフル警報、過去2番目の早さ。患者数は前週から「ほぼ倍増」

衝撃の数字―何が起きているのか？

警報基準を大きく超える感染レベル

今回の警報発令の引き金となったのは、驚くべき数字です。2025年11月10日から16日の週、県内の定点医療機関あたりの患者報告数は平均38.40人。これは、インフルエンザ警報の基準である「30人」を大幅に上回る数値です。これはすでに「注意報」レベルをはるかに超え、大きな流行が発生・継続していることを示す危険なシグナルと言えます。2009年の新型インフルエンザ大流行時に次ぐ記録的な早さでの警報発令は、医療現場にも緊張をもたらしています。

前週比「ほぼ倍増」という感染スピード

さらに深刻なのは、その感染拡大のスピードです。今回の患者数38.40人という数字は、その前の週の19.43人から、わずか1週間でほぼ倍増したことを意味します。これは、ウイルスが驚異的な速さで市中に広がっている証拠です。通常、インフルエンザの流行は年末から年始にかけてピークを迎えますが、今年は1ヶ月以上も早く本格的な流行期に突入した形です。この異常なペースでの感染拡大が、今回の異例の警報発令につながりました。

特に深刻な能登中部と金沢市

県内全域で感染が拡大していますが、地域によってその深刻さには差が見られます。特に報告数が多いのが、能登中部地域と県庁所在地の金沢市です。これらの地域では、警報基準をはるかに超えるレベルでの感染が報告されており、集団感染のリスクも高まっています。人口が集中し、人の移動が活発な都市部を中心に感染が広がり、そこから周辺地域へと波及している構図が浮かび上がります。では、なぜ今年はこれほどまでに流行のペースが早いのでしょうか？

なぜ今年はこれほど早いのか？考えられる3つの理由

理由①：コロナ禍で低下した「免疫の壁」

最大の要因として専門家が指摘するのが、社会全体の免疫力の低下です。過去数年間の徹底した新型コロナウイルス対策により、インフルエンザの流行は極めて小規模に抑えられてきました。その結果、多くの人がインフルエンザウイルスにさらされる機会がなく、特に子どもたちを中心に免疫を持たない人が増えています。この「集団免疫の低下」が、ウイルスにとって格好の広がりやすい環境を作り出してしまったのです。いわば、社会全体がインフルエンザに対して無防備な状態に近くなっていると言えるでしょう。

理由②：マスク緩和と人流の活発化

新型コロナウイルスの5類移行に伴い、マスクの着用は個人の判断に委ねられ、社会経済活動もコロナ禍以前の姿を取り戻しつつあります。イベントや会食、旅行など、人々が密集し交流する機会が急増しました。こうした人流の回復は、経済にとっては喜ばしいことですが、同時に呼吸器系の感染症であるインフルエンザにとっては、またとない感染拡大のチャンスとなります。物理的な感染対策が緩和されたことで、ウイルスが人から人へと伝播する速度が格段に上がっているのです。

理由③：海外からのウイルスの流入

水際対策の大幅な緩和により、海外との往来が活発になったことも一因と考えられます。特に、日本が夏の間、南半球は冬であり、インフルエンザの流行シーズンでした。そこから持ち込まれたウイルスが、免疫の低下した日本国内で一気に広まった可能性も指摘されています。ウイルスの型は毎年少しずつ変化するため、過去に感染経験があっても新しい型のウイルスには免疫が効きにくい場合があります。グローバル化が進んだ現代社会ならではのリスクと言えます。こうした背景を踏まえ、私たちは流行にどう立ち向かえばよいのでしょうか。

大流行は避けられるか？今すぐできる感染対策

基本に立ち返る「手洗い・換気・咳エチケット」

石川県や金沢市が強く呼びかけているのは、特別なことではありません。それは、私たちがコロナ禍で徹底してきた基本的な感染対策です。具体的には、石鹸によるこまめな手洗い、アルコールによる手指消毒、そして定期的な室内の換気です。また、咳やくしゃみが出る際は、マスクやティッシュ、袖の内側で口と鼻を覆う「咳エチケット」を徹底することが、周囲への感染拡大を防ぐ上で非常に重要です。「当たり前」の対策を一人ひとりが確実に実践することが、社会全体を守る最も効果的な手段となります。

ワクチン接種は「まだ間に合う」

重症化を防ぐ最も有効な手段の一つが、インフルエンザワクチンの接種です。ワクチンを接種してから体内で抗体ができるまでには、通常2週間程度かかります。流行はすでに始まっていますが、本格的なピークはこれから年末年始にかけてやってくる可能性が高いため、今からの接種でも決して遅くはありません。特に、高齢者や基礎疾患のある方、そして子どもは重症化するリスクが高いため、積極的な接種が推奨されています。かかりつけの医療機関に相談し、早めの接種を検討することが重要です。

専門家が警鐘を鳴らす「年末年始のリスク」

専門家が特に懸念しているのが、これから迎える年末年始の時期です。クリスマスパーティーや忘年会、帰省、初詣など、多くの人が集まり、長距離を移動する機会が増えます。これは、感染が一気に全国へ拡大する絶好の機会となりかねません。ある感染症専門家は「現在の流行はまだ序章に過ぎない。年末年始の人の動き次第では、医療体制を揺るがすほどの大流行に発展する恐れがある」と警鐘を鳴らしています。体調が少しでも悪い場合は無理をせず、会合への参加を見合わせる勇気も必要になります。

今後の焦点は？大流行を防ぐ鍵とは

過去2番目の早さで発令されたインフルエンザ警報は、石川県が本格的な大流行の入り口に立っていることを示しています。コロナ禍を経て変化した私たちの免疫状態と社会環境が、この異例の事態を引き起こしました。今後の感染拡大の規模を左右する最大の鍵は、これから迎える年末年始における私たち一人ひとりの行動にかかっています。基本的な感染対策の徹底と、ワクチンによる予防。この2つの柱を社会全体で実践できるかどうかが試されています。私たちはこの異例の流行を乗り越えることができるのか、今後の動向が厳しく注視されます。