『定時で帰りたい』は誤解？　Z世代のホンネ「安定と成長」両立の真相

なぜZ世代は「ワークライフバランス」を最優先するのか

近年の複数の調査で、Z世代が働き方において最も重視する価値観が浮き彫りになりました。それは「仕事と私生活の調和」、すなわちワークライフバランスです。彼らにとって「自分らしい働き方」とは、プライベートの時間を犠牲にして仕事に滅私奉公することではなく、むしろ逆。仕事とプライベートを明確に分離し、個人の時間を確保・充実させることが、働く上での大前提となっています。この価値観は、上の世代からは「ドライだ」「意欲が低い」と誤解されがちですが、実はその根底には、現代社会を反映した切実な願いが隠されています。

根底にある、切実なまでの「安定志向」

なぜ、そこまでプライベートを重視するのでしょうか。データが示すのは、彼らのリアルな「安定志向」です。働く目的を尋ねた調査では、「経済的な安定」が圧倒的多数を占めました。これは、日本が長らく経済の停滞期にあり、将来への不確実性が高い社会で育ってきた彼らにとって、当然の感覚なのかもしれません。安定した収入を得て、まずは自分の生活基盤を固めること。そして、過度なストレスや長時間労働を避け、精神的な安定、つまりウェルビーイングを保つこと。これらが、彼らにとって仕事を選ぶ上での譲れない条件となっているのです。安定した生活という土台があってこそ、初めて仕事にも前向きに取り組める、というわけです。

しかし、彼らを単なる「安定志向」と片付けてしまうのは早計です。実は、その心の中にはもう一つの熱い思いが渦巻いています。

予想外の本音―「安定」だけでは満足しない理由

Z世代の価値観は、安定を求める一方で、驚くほど自己成長への意欲が高いという二面性を持っています。彼らは決して「楽をしたい」わけではないのです。「なりたい自分」についての調査では、「スキル・専門性を高めて活躍する」「高収入を得る」といった項目が上位にランクインしました。これは、単に会社にぶら下がるのではなく、自らの市場価値を高め、プロフェッショナルとして自立したいという強い意志の表れです。彼らは、終身雇用が当たり前ではない時代を肌で感じています。だからこそ、一つの会社に依存するのではなく、どこでも通用するスキルを身につけることが、本当の意味での「安定」に繋がると考えているのです。

「成長」こそが未来の「安定」を作る

この「成長意欲」は、彼らが置かれた社会環境への現実的な防衛策とも言えます。リスキリングやアップスキリングという言葉が注目されるように、変化の激しい現代では、常に学び続けなければキャリアを維持することさえ難しい。Z世代はこの現実を敏感に察知しています。だからこそ、日々の業務を通じて具体的なスキルが身につくか、自分のキャリアパスに繋がる経験が得られるかを重視します。彼らにとって成長とは、単なる自己実現の欲求だけでなく、不確実な未来を生き抜くための、最も確実な投資なのです。

では、一見すると矛盾する「安定」と「成長」という二つの願いは、どのようにして彼らの中で両立しているのでしょうか？その背景には、彼らならではの合理的な思考がありました。

矛盾ではない？「安定」と「成長」を結ぶ一本の線

Z世代にとって、「安定」と「成長」は対立するものではなく、相互に補完し合う関係にあります。彼らの論理はこうです。まず、ワークライフバランスを確保し、プライベートを充実させることで心身の健康、すなわち「安定」した土台を築く。この安定した土台があるからこそ、仕事にも集中して取り組め、スキルアップという「成長」に繋がる。そして、成長して市場価値が高まれば、将来の「安定」がより確固たるものになる、という好循環です。彼らは、プライベートを犠牲にして得られる短期的な成果よりも、持続可能なキャリアを築くことを目指しています。これは、仕事と生活を統合的に捉えるワークライフインテグレーションに近い考え方と言えるかもしれません。

7割以上が抱える「キャリアの迷子」という現実

しかし、この理想的なサイクルを描く上で、多くのZ世代が大きな壁にぶつかっています。それが「キャリアへの迷い」です。ある調査では、「なりたい自分」を明確に描けているZ世代は、わずか23.7%に過ぎないという衝撃的な結果が出ています。つまり、7割以上の若者が「成長したい」という意欲はありながらも、具体的にどのようなスキルを身につけ、どの方向に進めば良いのか分からず、いわば「キャリアの迷子」状態にあるのです。このギャップが、彼らのポテンシャルが十分に発揮されない原因の一つになっていると考えられます。

こうしたZ世代の複雑な内面を理解した上で、企業や上司はどのように彼らと向き合えば、そのポテンシャルを最大限に引き出せるのでしょうか。

今後の焦点は？Z世代の力を引き出すマネジメント

Z世代の「安定」と「成長」を両立させたいという願いに応えることが、これからのマネジメントの鍵を握ります。まず大前提となるのが、「プライベートの尊重」です。定時で帰ることや休暇を取ることをためらわせない雰囲気作りは、彼らの信頼を得るための第一歩。これは甘やかしではなく、彼らが最高のパフォーマンスを発揮するための土台を整えることに他なりません。その上で不可欠なのが、「明確な成長機会の提供」です。ただ仕事を振るのではなく、その業務が本人のキャリアにとってどのような意味を持つのか、どんなスキルが身につくのかを丁寧に説明することが求められます。定期的な1on1ミーティングなどを通じてキャリアの相談に乗り、具体的な道筋を一緒に考える姿勢が、彼らのエンゲージメントを劇的に高めるでしょう。鍵を握るのは、「安心感」と「成長実感」を両立させる職場環境です。

Z世代は、安定した生活という土台の上で、未来への投資として自己成長を望んでいます。しかし、その7割以上がキャリアの道筋に迷っているという現実は、企業にとって大きな課題であり、同時に大きなチャンスでもあります。彼らの価値観を深く理解し、心理的安全性の高い環境で成長をサポートできるか。未来を担う世代との協働のあり方が、今、まさに問われています。