リハビリは「成果」で評価へ　財務省案で激変する日本の医療と、世界で進むゲノム編集治療の最前線

なぜ今、「頑張り」より「結果」が問われるのか？

財務省が示した「アウトカム評価」という大転換

衝撃の提案は、財務省が開催した財政制度等審議会で示されました。焦点は、2026年度に行われる次の診療報酬改定です。特にリハビリテーション分野において、評価の仕組みを根本から変えるべきだというのです。これまでは、どれだけ多くの理学療法士や作業療法士を配置しているか、つまり「人員の数」が評価の主な基準でした。しかし財務省は、これを「治療によって患者がどれだけ回復したか」というアウトカム評価、すなわち「成果」で評価する仕組みへの転換を強く求めています。これは、医療の質の向上と効率化を同時に目指す、まさに医療現場を揺るがす大きな転換点と言えるでしょう。

医療現場の戸惑いと「評価できない回復」

この改革案に対し、医療現場からは期待と同時に戸惑いの声も上がっています。質の高いリハビリを提供し、実際に患者を回復させている医療機関が正当に評価されるというメリットは大きいでしょう。しかし、課題も山積みです。「成果」をどう客観的に測るのか、その基準作りは非常に困難です。例えば、重度の障害を持つ患者さんや、回復が非常にゆっくりな高齢者の場合、目に見える成果が出にくいケースも少なくありません。「数字には表れないけれど、患者さんのQOL（生活の質）は確実に上がっている」といった現場の努力が、新しい評価制度では見過ごされてしまうのではないか、という懸念が広がっています。頑張っても成果が出にくい患者さんへのリハビリを、医療機関がためらうようになる可能性も指摘されています。

では、なぜ財務省はこのような難しい改革を今、推し進めようとしているのでしょうか？

世界で加速する治療革命―遺伝子を書き換え、既存薬に光を当てる

ゲノム編集が「コレステロール問題」を過去にする日

日本の制度改革が議論される一方、世界の医療技術は驚異的なスピードで進化しています。その最前線が、ゲノム編集技術「CRISPR（クリスパー）」を用いた新薬開発です。最近の臨床試験では、この技術を使った新薬が、脂質異常症の患者の悪玉コレステロールと中性脂肪を、たった一度の投与で長期間にわたり大幅に低下させる可能性が示されました。これは、生涯にわたって薬を飲み続ける必要がある多くの心血管疾患の患者にとって、まさに希望の光です。遺伝子レベルで病気の原因にアプローチする、新しい治療の時代がすぐそこまで来ています。

まさかの発見！身近な抗菌薬が心の病を防ぐ？

最先端技術だけでなく、既存の薬の新たな可能性を探る研究も活発です。驚くべき報告として、ニキビ治療などにも使われるごく一般的な抗菌薬であるドキシサイクリンが、統合失調症の発症リスクを約30%も低下させる可能性があることが示唆されました。これは全く予想されていなかった効果であり、安価で安全性の高い既存薬が、深刻な精神疾患の予防につながるかもしれないという、大きなブレークスルーです。このように、古い薬から新しい価値を見つけ出す「ドラッグ・リポジショニング」というアプローチも、治療の選択肢を広げる上で非常に重要になっています。

希少疾患に挑む日本の製薬企業

新薬開発の最前線では、日本の企業も奮闘しています。小野薬品工業が関わるPovetaciceptは、治療法が限られている自己免疫性腎疾患の治療薬候補として期待されています。この薬は米国FDA（食品医薬品局）から2025年11月11日に迅速な開発を促す指定を受け、承認への道が加速しています。患者数が少ない希少疾患の治療薬開発はビジネス的に難しいとされますが、こうした挑戦が多くの患者を救うことに繋がります。しかし、こうした技術革新の光が届かない場所もあります。

光と影―最先端医療の裏側で置き去りにされる命

紛争が奪う「当たり前の医療」

ゲノム編集や新薬開発といった華々しいニュースの陰で、医療そのものが崩壊の危機に瀕している国があります。アフリカ北東部のスーダンです。長引く紛争により、病院は破壊され、医薬品の供給は途絶え、多くの医療従事者が国外へ避難しました。残された人々は、基本的な医薬品すら手に入らない状況に置かれています。怪我をしても治療を受けられず、感染症が蔓延し、多くの命が失われています。最先端医療の恩恵を受けるどころか、人間が生きていく上で最低限必要な「当たり前の医療」さえも受けられない。これが、世界のもう一つの厳しい現実です。

ボランティアが繋ぐ心のケア

このような絶望的な状況下でも、希望を繋ごうとする人々がいます。スーダンでは、専門家ではない一般市民のボランティアたちが、精神的トラウマを抱える人々の心のケアを担っています。彼らは、自らも過酷な状況にありながら、互いに話を聞き、支え合うことで、心の崩壊を防ごうと活動しています。医療システムが機能しない中で、人々の繋がりだけが最後の砦となっているのです。技術の進歩がいかに目覚ましくとも、それがすべての人に届かなければ意味がない。スーダンの現実は、私たちに重い問いを投げかけています。

今後の焦点は？日本の医療が選ぶべき道

日本の医療は今、大きな岐路に立たされています。国内では、リハビリの「成果主義」への転換という、効率性と質を追求する制度改革が迫っています。一方で世界では、ゲノム編集のような革新的技術が、これまで治せなかった病気を克服しようとしています。この二つの大きな潮流は、私たちの未来をどう変えるのでしょうか。鍵を握るのは、質の高い医療を、いかに公平に、そして持続可能な形で提供できるかです。成果を求めるあまり、救われるべき患者が置き去りにされることがあってはなりません。技術の恩恵が、一部の裕福な人々だけのものになってもいけません。制度と技術の交差点で、私たちの医療はどこへ向かうべきか。今、その選択が問われています。