なぜ今、百日咳？　乳幼児を守るため大人が知るべき『意外な感染経路』

「過去の病気」ではなかった？全国で続く感染の衝撃的な実態

埼玉で10代に流行、東京は監視を強化

夏のピークは過ぎたものの、百日咳の流行は収束していません。2025年11月下旬の最新データによると、埼玉県では第47週（11月17日～23日）だけで43人の患者が報告されました。驚くべきことに、その約半数が10代の若者です。一方、東京都では、この事態を重く見て2018年から百日咳を「全数把握対象疾患」に指定しています。これは、診断したすべての医師に届け出を義務付けるもので、感染拡大の兆候をいち早く捉え、対策を講じるための重要な仕組みです。こうした感染症サーベイランス体制が、流行の実態を浮き彫りにしています。

なぜ感染の連鎖は断ち切れないのか

多くの人が子どもの頃にワクチンを接種しているはずなのに、なぜこれほどまでに感染が広がるのでしょうか。専門家は、その背景に複数の要因が絡み合っていると指摘します。一つは、集団免疫のわずかな隙間を突いて感染が広がっている可能性です。そしてもう一つ、さらに深刻な問題が、私たち大人世代の中に潜んでいます。それは、多くの人が見落としている「ワクチンの効果」に関する重大な事実です。この見えざるリスクが、最も無防備な乳幼児を危険に晒しています。では、その重大な事実とは一体何なのでしょうか？

意外な感染源は「あなた」かも？ワクチン効果の知られざる落とし穴

ワクチン効果は永遠ではなかった

私たちが乳幼児期に接種するDPT-IPV（四種混合）ワクチンは、百日咳の重症化を防ぐ上で絶大な効果を発揮します。しかし、その効果は永遠ではありません。専門家の間では「ワクチン効果減衰」として知られており、接種から5年～10年経つと、感染を防ぐための抗体が徐々に減少していくのです。つまり、現在の子育て世代や祖父母世代の多くは、百日咳菌に対する十分な抵抗力を持っていない可能性があります。子どもの頃に受けた予防接種だけでは、大人になってからの感染を完全に防ぐことは難しいのです。この事実が、現代における百日咳流行の最大の背景となっています。

大人の「軽い咳」が最悪の事態を招く

ワクチン効果が減衰した大人が百日咳に感染すると、どうなるのでしょうか。多くの場合、乳幼児のような激しい症状は出ません。「少し長引く風邪」「しつこい咳」といった程度の軽い症状で済むことがほとんどです。しかし、ここに最大の罠があります。症状が軽いために本人に自覚がなく、自分が感染源となっていることに気づかないまま、家庭や職場でウイルスを広めてしまうのです。そして、その感染の連鎖の先にいるのが、まだワクチンを接種していない、あるいは接種途中である生後間もない赤ちゃんです。家庭内での飛沫感染や接触感染が、乳幼児にとって最も危険な感染経路となっているのです。あなたのその咳が、知らず知らずのうちに大切な命を危険に晒しているかもしれません。

赤ちゃんの命を脅かす「百日咳」本当の恐怖とは？

呼吸を奪う激しい咳の発作

大人が「ただの咳」で済む一方、乳幼児、特に定期接種が完了していない生後6ヶ月未満の赤ちゃんが感染すると、事態は一変します。百日咳は、その名の通り、長い期間にわたって特有の激しい咳が続く病気です。短い咳が連続して起こる「スタッカート」と呼ばれる発作が特徴で、赤ちゃんは顔を真っ赤にして息もつけないほど咳き込みます。そして、咳の発作の後、息を吸い込む際に「ヒューッ」という笛のような音が出る「レプリーゼ」が見られます。この一連の発作は体力を激しく消耗させ、時には呼吸が止まってしまう「無呼吸発作」を引き起こし、命に直接関わる危険な状態に陥ります。

命に関わる合併症のリスク

百日咳の最も恐ろしい点は、重篤な合併症を引き起こすリスクが高いことです。特に免疫力が未熟な乳児では、百日咳菌が産生する毒素によって、肺炎や脳症といった命に関わる病気を併発することがあります。脳症に至った場合、けいれんや意識障害が起こり、深刻な後遺症が残る可能性も否定できません。世界のデータを見ても、百日咳による死亡例のほとんどは生後3ヶ月未満の乳児に集中しています。大人の無自覚な感染が、取り返しのつかない悲劇につながる可能性があるという事実を、私たちは決して忘れてはなりません。

赤ちゃんを守るために、今すぐ私たちができること

では、この見えざる脅威から大切な赤ちゃんを守るために、私たち大人は何をすべきなのでしょうか。答えは、日々の基本的な行動と、正しい知識を持つことにあります。まず、咳エチケットの徹底です。咳が出る場合は必ずマスクを着用し、周囲への飛沫を防ぎましょう。加えて、こまめな手洗いと室内の換気も、ウイルスを家庭内に持ち込まないために非常に重要です。

そして、より積極的な防御策が、ワクチンの追加接種です。特に、これから赤ちゃんを迎える妊婦さんや、乳幼児と接する機会の多いお父さん、祖父母の方々は、Tdapワクチンの任意接種を検討することが強く推奨されています。大人が接種して抗体を持つことで、自らが感染源になるリスクを減らし、赤ちゃんを守る「繭（コクーン）」のような役割を果たすことができるのです。社会全体の認知度向上と、大人のワクチン接種への意識改革が、流行を食い止める鍵となります。あなたのその咳、本当にただの風邪でしょうか？大切な命を守るため、今一度、自身の行動を見直してみませんか。