エンジン車が救世主に？マツダの「走るCO₂回収装置」その驚きの仕組み

「エンジン車は悪」はもう古い？常識を覆すマツダの逆襲

ついに実証された「走るCO₂回収装置」

2025年11月、自動車業界に激震が走りました。マツダが、走行中の自動車から二酸化炭素（CO₂）を回収する車載装置「Mazda Mobile Carbon Capture」の実証実験に成功したと発表したのです。実験の舞台は、スーパー耐久シリーズ最終戦という過酷なレース現場。次世代のバイオディーゼル燃料で走るレース車両「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept」に搭載され、排出ガスからCO₂を確かに吸着できることが確認されたのです。これは、長年「悪者」とされてきた内燃機関が、地球環境に貢献できる可能性を示した歴史的な一歩と言えるでしょう。

なぜ今、エンジン技術に挑むのか？

世界は今、EV（電気自動車）へのシフトを急速に進めています。そんな中、なぜマツダはあえてエンジン技術にこだわるのでしょうか。その答えは、マツダが掲げる「マルチソリューション」という戦略にあります。これは、EVだけでなく、クリーンディーゼルや合成燃料など、多様な選択肢でカーボンニュートラルを目指す考え方です。全ての人がすぐにEVに乗り換えられるわけではありません。既存の自動車やガソリンスタンドなどのインフラを活かしながら脱炭素を進める道筋を示すことは、非常に現実的なアプローチです。今回の発表は、EVだけが唯一の正解ではないという、マツダからの強いメッセージなのです。

では、この魔法のような装置は、一体どのような仕組みで動いているのでしょうか？

驚きの仕組みと「走るほど空気が綺麗になる」未来

鍵は「特殊な石」とエンジンの「廃熱」

この画期的な装置の心臓部には、実はとても賢い仕組みが隠されています。まず、エンジンルーム内に設置されたフィルターには、ゼオライトという特殊な素材が使われています。このゼオライトは、目に見えない無数の小さな穴を持っており、排気ガスが通過する際にCO₂だけを磁石のように吸着する性質があります。そしてここからがマツダの発想のすごいところ。吸着したCO₂を分離するために、エンジンの廃熱という“捨てられるはずのエネルギー”を再利用するのです。この熱でゼオライトを温めることでCO₂が放出され、それを専用のタンクに回収します。新たなエネルギーを使わずに、無駄を価値に変える。まさに環境技術のお手本のような仕組みです。

目指すは「カーボンネガティブ」という究極の目標

この技術が目指すゴールは、単に排出ガスをクリーンにすることだけではありません。その先には、走行するほど大気中のCO₂を削減する『カーボンネガティブ』という壮大な未来が描かれています。どういうことかと言うと、このCO₂回収装置を、植物由来のバイオ燃料のようなカーボンニュートラル燃料と組み合わせるのです。植物は成長過程で大気中のCO₂を吸収するため、その植物から作った燃料を燃やしても、もともと大気にあったCO₂が戻るだけで、CO₂の総量は増えません。その上で、排出ガスからさらにCO₂を回収すれば、結果的に大気中のCO₂を減らすことができるのです。これが実現すれば、車が単なる移動手段ではなく「大気を浄化する装置」に変わるという、まさに革命的な変化が起こるかもしれません。

しかし、この夢のような技術が私たちの身近な存在になるには、まだ乗り越えるべき壁があります。

実用化への3つの壁と自動車業界へのインパクト

回収したCO₂はどこへ？循環型経済への貢献

「回収したCO₂は、その後どうなるの？」という疑問が湧きますよね。マツダは、その使い道まで見据えています。有力な選択肢の一つが、e-fuel（イーフューエル）と呼ばれる合成燃料の原料にすることです。e-fuelは、再生可能エネルギーで作った水素と、回収したCO₂を合成して作られる次世代の燃料。つまり、車の排気ガスから回収したCO₂を、再び車の燃料として再利用するという、完璧な循環型経済が生まれるのです。これにより、化石燃料への依存を減らし、持続可能な社会の実現に貢献できると期待されています。車が生み出したCO₂が、未来の車を動かすエネルギーに生まれ変わる。そんな時代がすぐそこまで来ているのかもしれません。

立ちはだかる「コスト・重量・インフラ」の課題

夢のある技術ですが、市販車に搭載されるまでには、いくつかの現実的な課題をクリアしなければなりません。専門家が指摘するのは、大きく分けて3つの壁です。第一に「コスト」。CO₂回収装置そのものの製造コストや、メンテナンス費用が車両価格にどれだけ上乗せされるのか。第二に「重量」。装置を搭載することで車が重くなり、燃費が悪化してしまっては本末転倒です。小型化・軽量化が必須となります。そして第三の壁が「インフラ」です。回収したCO₂をタンクから集めるためのステーションを、ガソリンスタンドのように全国に整備する必要があります。これらのコスト、重量、そして回収インフラという3つの大きな壁を、技術革新と社会システムの両面からどう乗り越えていくかが、実用化への鍵となります。

EV一辺倒の流れに一石を投じるか？

マツダのこの挑戦は、EVシフト一色だった自動車業界に大きな波紋を広げています。特に、トヨタ自動車のように、エンジン技術にも強みを持ち、マルチソリューションを推進するメーカーにとっては追い風となる可能性があります。この技術が進化すれば、世界各国の環境規制や政策そのものにも影響を与えるかもしれません。消費者にとっても、EVだけでなく、クリーンなエンジン車という新たな選択肢が生まれることは歓迎すべきことです。また、このアプローチの利点は、既存のガソリンスタンド網などを回収インフラとして活用できる可能性があること。ゼロから充電インフラを整備するよりも、社会的なコストを抑えられるかもしれません。エンジン車の逆襲が、ここから始まるのか。業界全体の動きが注目されます。

今後の焦点は？エンジン車は本当に救世主になるのか

マツダが発表した「走るCO₂回収装置」は、長年悪者とされてきたエンジン車の可能性を再定義し、脱炭素社会への新たな道筋を示しました。しかし、その実用化にはコストやインフラといった高いハードルが残されています。鍵を握るのは、今後の技術革新のスピードと、社会全体でこの新しい仕組みを受け入れる協力体制を築けるかどうかです。エンジン車が地球を救う未来は、本当に訪れるのでしょうか？この常識を覆す挑戦から、しばらく目が離せません。