男性育休、初の7割超え！ なぜ地方では6割が未取得？見えざる壁の正体

なぜ男性育休は7割を超えたのか？快挙を支えた法改正と意識の変化

今回の取得率76.5%という数字は、単なる記録更新ではありません。これは、日本の働き方や家族のあり方が大きな転換点を迎えていることを示す、重要なサインです。では、この歴史的な変化は、一体何によってもたらされたのでしょうか。その背景には、大きく分けて2つの強力な追い風がありました。

追い風①：2022年の法改正という「最強の武器」

最大の要因は、間違いなく育児・介護休業法の改正です。この改正により、企業は従業員に対して育休取得の意向を確認することが義務化されました。さらに、通称「産後パパ育休」が創設され、男性がより柔軟に、そして主体的に育休を取得できる環境が法的に整備されたのです。これまで「言い出しにくい」と感じていた男性にとって、会社側から取得を働きかけてくれるようになったことは、非常に大きな後押しとなりました。制度という「武器」が、個人の意識を変えるきっかけになったのです。

追い風②：「共働きが当たり前」時代の意識変革

もう一つの大きな要因は、社会全体の意識の変化です。今や共働き世帯は当たり前となり、育児は女性だけが担うものではなく、夫婦が協力して行うものという価値観が急速に浸透しています。特に若い世代を中心に、ワークライフバランスを重視する傾向が強まり、男性が育児に積極的に関わることは、キャリアと同様に大切なことだと考えられるようになりました。こうした社会の空気の変化が、法改正の効果をさらに高め、取得率の大幅な向上につながったと言えるでしょう。しかし、数字の上昇とは裏腹に、現場では根深い課題が依然として残っています。

期待と不安―それでも消えない職場での「2つの壁」

制度が整い、取得率が向上しても、多くの父親たちが職場で直面する「見えざる壁」は依然として厚く、高いままです。調査からは、制度利用をためらわせる2つの根深い課題が浮かび上がってきました。それは、周囲の無理解と、仕事への罪悪感という、ソフト面での大きな障壁です。

壁①：「どうせ休むんでしょ？」上司・同僚の無理解

最も多くの人が挙げるのが、「上司や同僚の理解不足」です。育休取得を相談した際に、「男が育休なんて」「仕事はどうするんだ」といった否定的な反応を受けたり、快く送り出してくれたように見えても、復帰後に重要な仕事から外されたりするケースは後を絶ちません。こうした経験は、パタニティ・ハラスメント（パタハラ）とも呼ばれ、当事者に深刻な精神的ダメージを与えます。制度があるにもかかわらず、職場の雰囲気がそれを許さない。このギャップが、多くの男性を苦しめているのです。

壁②：「迷惑をかけてしまう」という罪悪感

もう一つの大きな壁は、「仕事を優先すべき」という暗黙のプレッシャーと、それに伴う罪悪感です。特に責任ある立場にある人ほど、「自分が休むことでチームに迷惑がかかる」「キャリアに響くのではないか」という不安を抱きがちです。これは個人の問題というより、属人的な働き方が根付いている日本企業特有の課題と言えるかもしれません。誰かが休んでも業務が滞りなく回るような仕組みや、育休取得をキャリアのプラスとして評価するような企業文化がなければ、この「罪悪感」という壁を乗り越えるのは難しいでしょう。そして、この問題は地域によって、その深刻さが全く異なります。

衝撃の事実―なぜ地方では6割が育休を取れないのか？

全国平均76.5%という華々しい数字の影で、地方における育休取得の現実は驚くほど厳しいものです。調査によれば、地方では約6割もの男性が育休を未取得。この衝撃的な「育休格差」はなぜ生まれるのでしょうか。その背景には、都市部とは異なる、地方特有の3つの構造的な問題が横たわっています。

構造問題①：代わりがいない「中小企業の人員不足」

地方経済を支える中小企業では、慢性的な人員不足が深刻です。一人ひとりが担う業務範囲が広く、「誰かが休んだら、その仕事を代われる人がいない」という状況が常態化しています。このような環境では、たとえ制度があっても、育休を取得することは現実的に困難です。「休みたいけど、休めない」。これは、地方で働く多くの男性が抱える、切実なジレンマなのです。大企業に比べて代替要員の確保が難しい中小企業への支援なくして、この問題の解決はありえません。

構造問題②：「前例がない」という同調圧力とキャリア不安

地方では、都市部に比べて人間関係が密接であるため、同調圧力が強く働きがちです。「男性で育休を取った人が周りにいない」「自分が第一号になるのは気が引ける」といった声は少なくありません。身近に育休を取得したロールモデルがいないため、取得後のキャリアパスが想像できず、昇進への不安から取得を断念するケースもあります。この「前例がない」という見えない壁が、新たな挑戦を阻んでいるのです。

構造問題③：母親に集中する負担と「ワンオペ育児」のリスク

男性の育休未取得がもたらす影響は、父親自身だけの問題ではありません。最も深刻な影響を受けるのは、産後の母親です。父親が育児に参加できないことで、育児負担が母親一人に集中する、いわゆる「ワンオペ育児」に陥りやすくなります。専門家は、男性の育休未取得が、母親の産後うつのリスクを高めると警鐘を鳴らしています。父親が育休を取れないという問題は、家庭内の育児の質を低下させ、ひいては子どもの健やかな成長にも影響を及ぼしかねない、社会全体で取り組むべき課題なのです。では、この根深い格差をどう乗り越えればいいのでしょうか？

今後の焦点は？真の「男女共同育児」実現への道筋

男性の育休取得率7割超えは大きな一歩ですが、地方との深刻な格差は、制度を整えるだけでは解決できない根深い問題があることを示しています。全国一律のルールだけでは、現場の実態に追いつけません。鍵を握るのは、法律の整備に留まらない、企業文化そのものの変革と、地域の実情に合わせたきめ細やかな支援です。中小企業への代替要員確保の補助や、育休取得を評価する人事制度の導入など、具体的な対策が急がれます。この「育休格差」は、単なる数字の違いではありません。それは、子どもと向き合う時間の格差であり、家族の未来の格差です。この壁を乗り越え、誰もが当たり前に育児に参加できる社会を実現できるのか。私たちの選択が問われています。