EU新規則、違反なら売上4%罰金。コーヒーや家具も対象、12月開始

なぜ無関係ではないのか？コーヒーから家具まで、対象品目の意外な広がり

「対岸の火事」ではない理由

この新しい規則の名前は「EU森林破壊防止規則（EUDR）」。その目的は、世界の森林破壊を食い止めることです。EUは、自分たちの消費が世界の森林を破壊する原因にならないよう、厳しいルールを導入しました。これは、EUに製品を輸出する、あるいはEUから製品を輸入するすべての企業に関係します。つまり、グローバルにビジネスを展開する多くの日本企業が、この規則の直接的な対象となるのです。

対象となる7品目と意外な製品

対象となるのは、パーム油、牛、木材、コーヒー、カカオ、ゴム、大豆の7つの品目です。しかし、話はそれだけでは終わりません。これらの品目から作られる「派生製品」もすべて対象に含まれます。例えば、カカオから作られるチョコレート、木材から作られる家具や紙、印刷物、パーム油を含むスナック菓子や化粧品、牛革製品、大豆由来の食品、ゴム製のタイヤなど、私たちの身の回りにある驚くほど多くの製品が対象となり得ます。あなたの会社が直接7品目を扱っていなくても、仕入れた部品や原料にこれらが含まれていれば、対応が必要になるのです。

日本は「低リスク国」でも免除されない現実

「でも、日本は森林が多い国だから大丈夫だろう」と思うかもしれません。確かに、日本は森林破壊のリスクが低い「低リスク国」に分類される見込みです。しかし、ここで大きな勘違いをしてはいけません。低リスク国に指定されても、規則を守る義務は一切免除されないのです。手続きが少し簡素化されるだけで、すべての対象企業は、製品が森林破壊に関わっていないことを証明する義務を負います。つまり、日本の企業であっても、例外なくこの新しいルールの土俵に上がらなければならないのです。では、企業には具体的にどのような重い義務が課されるのでしょうか？

「どこで育ったか」を証明せよ―企業に課される重い義務とは？

デューデリジェンスという新たな「宿題」

企業に課される最も重要な義務が「デューデリジェンス（DD）」です。これは、製品が「2020年12月31日以降に森林破壊された土地で生産されたものではない」こと、そして「生産された国の法律を守って作られたものである」ことの2点を、企業自らが調査し、証明する責任を負うということです。これは、いわば製品の「戸籍謄本」を準備するようなもの。これまでのビジネス慣行にはなかった、非常に重い「宿題」と言えるでしょう。この証明ができない限り、製品をEUで販売することはできなくなります。

求められる「生産地のGPS情報」

証明のためには、驚くほど詳細な情報が必要です。その核心となるのが、製品の原料が生産された農地やプランテーションの正確な位置情報、つまり「ジオロケーション」データです。例えばコーヒー豆なら、どの農園のどの区画で収穫されたかまで特定し、そのGPS情報を集めなければなりません。企業はこれらの情報をまとめた「デューデリジェンス声明（DDS）」を作成し、EUの情報システムに提出することが義務付けられます。これは、まさに製品の出自を一点の曇りなく明らかにすることを求めるものです。

サプライチェーンの透明化という巨大な壁

多くの日本企業にとって、これは巨大な壁となります。なぜなら、日本の製造業は、数多くの部品メーカーや原料サプライヤーが複雑に絡み合うサプライチェーンの上に成り立っているからです。最終製品を作るメーカーが、原料である大豆やパーム油がどの国のどの農園で栽培されたかまで遡って追跡するのは、至難の業です。このサプライチェーンの「見える化」が、多くの企業にとって最大の課題となっています。しかし、この義務を怠った場合、企業を待っているのは非常に厳しい現実です。

違反すれば売上4%罰金！甘くない罰則と失われる信用

衝撃の罰則：年間売上高の4%以上

もし、この規則に違反してしまったらどうなるのでしょうか。EUが用意している罰則は、決して甘いものではありません。最も厳しいのが罰金です。EU域内における企業の年間総売上高の、少なくとも4%に相当する額が科される可能性があります。これは「利益」ではなく「売上」の4%です。企業にとっては、経営を揺るがしかねないほどのインパクトを持つ金額と言えるでしょう。EUの本気度がうかがえる、極めて厳しい措置です。

製品没収と取引停止のリスク

罰金だけではありません。違反が発覚した場合、対象製品は税関で没収され、市場からの一時的な排除や販売禁止命令が出される可能性があります。さらに、EU域内の公的な契約や入札から一定期間締め出される「公的調達からの除外」という罰則も定められています。これは、EU市場でのビジネスチャンスを大きく失うことを意味します。金銭的な損失に加え、事業そのものに深刻なダメージを与えるリスクが潜んでいるのです。

お金で買えない「企業の信用」の失墜

しかし、最も恐ろしいのは、目に見えないダメージかもしれません。それは、企業の評判が傷つく「レピュテーションリスク」です。「あの会社は森林破壊に関わっている」というレッテルが貼られれば、消費者の信頼を失い、不買運動につながる可能性もあります。また、環境問題への意識が高い投資家からは、投資先として敬遠されるかもしれません。一度失った信用を取り戻すのは、罰金を支払うよりもはるかに困難です。では、期限が目前に迫る中、日本企業は何をすべきなのでしょうか？

期限は目前！日本企業が今すぐ取り組むべきこと

対策①：サプライチェーンの「見える化」

残された時間はわずかです。日本企業が今すぐ取り組むべきことの第一は、自社のサプライチェーンを徹底的に見直すことです。製品に使われている原料が、どこから来ているのか。その調達ルートを末端まで遡って把握し、トレーサビリティ（追跡可能性）を確保する必要があります。これには、取引先であるサプライヤーとの緊密な連携が不可欠です。どの農園で生産されたかというジオロケーション情報を提出してもらうよう、協力を要請しなければなりません。これは一朝一夕にできることではなく、全社を挙げた取り組みが求められます。

対策②：社内体制の緊急構築

第二に、デューデリジェンスを実施し、その結果を管理・報告するための社内体制を緊急に構築することです。誰がサプライヤーから情報を収集し、誰がそのリスクを評価し、誰がデューデリジェンス声明を作成・提出するのか。法務、調達、サステナビリティなど、部門を横断した専門チームの設置が急務となります。また、収集した膨大な情報を管理するためのITシステムの導入も検討する必要があるでしょう。大企業は2024年12月30日、中小企業でも2025年6月30日には適用が開始されます。まさに待ったなしの状況です。

これは始まりに過ぎない？世界的な潮流

このEUDRは、単独の動きではありません。近年、欧州を中心に、環境や人権に関する企業の責任を問う「環境・人権デューデリジェンス」を法制化する動きが世界的な潮流となっています。つまり、今回の対応は一時的なものではなく、これからのグローバルビジネスにおける「新しい常識」の始まりと捉えるべきです。この変化は、私たちの未来にどのような影響を与えるのでしょうか。

鍵を握るのは何か？問われる企業の『誠実さ』

EUの新規則は、単なる環境保護ルールではありません。企業の「誠実さ」がサプライチェーン全体で問われる時代の幕開けです。鍵を握るのは、製品がどこで、どのように作られたかを正確に把握する「トレーサビリティ」の確立。多くの企業にとってこれは巨大な壁ですが、乗り越えた先には、持続可能な企業としての社会的な信頼が待っています。果たして日本企業は、この世界的な潮流を乗りこなし、未来の消費者から選ばれる存在であり続けられるのか。その対応力が今、試されています。