学校は週1日だけ？働きながら卒業できる『新しい高校』新潟に来春誕生

なぜ『働きながら学ぶ高校』が今、必要なのか？

過去最多29万人―学校に行けない子どもたちの現実

今、日本の教育現場は静かな危機に直面しています。文部科学省の調査によると、2022年度の小中学校における不登校の児童生徒数は29万9048人。驚くべきことに、10年連続で増加し過去最多を記録しました。これは、画一的な教育システムや人間関係の中で、自分の居場所を見つけられずに苦しんでいる子どもたちが、決して少なくないことを示しています。従来の「毎日学校に通う」というスタイルだけでは、すべての子どもの学びを支えきれない。そんな現実が、新しい教育の形を求める切実な声につながっているのです。

元教師の挑戦「学校が合わない」をなくしたい

この課題に正面から向き合ったのが、新潟県で開校準備を進める通信制サポート校「ライトシップ高等学院」です。設立者は、長年高校教師として現場に立ってきた人物。彼は、学校という場所に馴染めず、能力を発揮できないまま卒業していく生徒たちを数多く見てきました。「学校が合わないだけで、その子の可能性が閉ざされてはいけない」。その強い思いが、既存の枠組みにとらわれない、まったく新しい学校の設立へとつながりました。この学院が目指すのは、単なる高校卒業資格の取得ではなく、社会で生き抜くための実践的な力と自信を育むことです。

新潟・上越から始まる教育の新たな選択肢

なぜ、この挑戦の舞台が新潟県上越市なのでしょうか。そこには、地域社会全体で若者を育てようという先進的な考え方があります。都会に比べて企業と地域の結びつきが強い地方都市だからこそ、生徒を受け入れる協力企業を見つけやすいという利点があります。また、地域の担い手不足という課題を抱える企業にとっても、若く意欲のある人材と早期に出会えることは大きな魅力です。ライトシップ高等学院の取り組みは、単なる一つの学校の試みではなく、教育と地域社会が連携し、新たな価値を生み出すモデルケースとして注目されているのです。では、この新しい学院は具体的にどのような仕組みで学びと仕事の両立を実現するのでしょうか？

週4勤務で給料も？驚きの『デュアルシステム』の仕組み

ドイツの職業教育モデルを日本へ

この学院の最大の特徴は、ドイツの先進的な職業教育制度である「デュアルシステム」を参考にしている点です。デュアルシステムとは、企業での実践的な職業訓練（OJT）と、学校での理論的な学習を組み合わせた教育モデルのこと。ドイツでは、この制度によって若者が早い段階から専門スキルと社会経験を身につけ、高い就職率を誇っています。ライトシップ高等学院は、この仕組みを日本の高校教育に初めて本格的に導入しようとしています。生徒は、学校の生徒であると同時に、提携企業の従業員という二つの顔を持つことになります。これは、日本の教育界にとって非常に画期的な試みと言えるでしょう。

週1登校＋週4勤務のリアルな生活

生徒たちの1週間は、これまでの高校生活とは全く異なります。学校への登校は週に1日のみ。この日に、高校卒業に必要な科目の授業やレポート作成のサポートを受けます。そして、週に3日から4日は提携先の企業で実際に働くのです。もちろん、これは単なるアルバイトではありません。企業の一員として働き、給与を得ながら、現場でしか学べない実践的なスキルを習得します。残りの時間は、オンライン学習などを活用して、自分のペースで学習を進めます。この柔軟なカリキュラムにより、生徒は自分の興味や関心に合わせて、学びと仕事のバランスを取りながら、無理なく高校卒業を目指すことができるのです。

学びと仕事、二兎を追うためのサポート体制

「働きながら勉強なんて、両立できるの？」と不安に思うかもしれません。しかし、学院はそのためのサポート体制を重視しています。週1回の登校日には、教員が生徒一人ひとりの学習進捗を細かくチェックし、レポート作成の指導やメンタルケアを行います。また、提携企業とも密に連携し、生徒の勤務状況や成長を共有。学校と企業が一体となって、生徒の社会的自立をサポートします。このような手厚い支援があるからこそ、生徒は安心して「学ぶこと」と「働くこと」の両方に集中できる環境が整えられています。一見、生徒にとって良いことずくめに見えますが、この仕組みは企業や地域社会にどのような影響を与えるのでしょうか？

生徒と企業のWin-Win？期待される3つの効果

「給与・スキル・自信」生徒が得る3つの価値

この新しい学びの形は、生徒に3つの大きな価値をもたらします。第一に「経済的な自立」です。給与を得ることで、家庭の経済状況に左右されずに学びを続けることができます。第二に「実践的なスキル」です。教室の勉強だけでは得られない、現場でのコミュニケーション能力や専門技術は、卒業後のキャリアに直結する大きな財産となります。そして最も重要なのが、第三の「自己肯定感の向上」です。働くことを通じて社会に貢献し、他者から必要とされる経験は、「自分は社会の一員なんだ」という確かな自信を育みます。これは、特に不登校などを経験し、自信を失いがちな生徒にとって、何物にも代えがたい価値を持つでしょう。

人手不足の救世主？企業側のメリット

この取り組みは、生徒だけでなく、受け入れ先の企業にとっても大きなメリットがあります。特に地方の中小企業が直面している深刻な人手不足問題。その解決策の一つとして、この制度は大きな可能性を秘めています。企業は、高校生の段階から意欲のある若手人材と接点を持ち、自社の業務に必要なスキルを直接指導することができます。これは、将来の正社員候補を早期に育成する絶好の機会となります。いわば「金の卵」を自社で育てるようなもの。ミスマッチの少ない採用が可能になるだけでなく、若者の新しい視点や活気が社内に新しい風を吹き込むことも期待できます。生徒と企業が共に成長する、まさにWin-Winの関係が築かれるのです。

地域全体で若者を育てる新しいエコシステム

ライトシップ高等学院の挑戦は、学校と企業の関係を超え、地域社会全体にポジティブな影響を与える可能性を秘めています。若者が地元企業で働くことで、高校卒業後も地域に定着し、地域経済の活性化に貢献することが期待されます。また、学校、企業、行政、そして地域住民が一体となって若者を支えるという文化が醸成されれば、それは上越市全体の大きな力となるでしょう。これは、単なる教育改革ではなく、若者を中心とした新しい「エコシステム（生態系）」を地域に創り出す試みとも言えます。この新潟の小さな一歩が、日本の教育と地域の未来を考える上で、重要なモデルケースとなるかもしれません。

日本の教育は変わるのか？今後の焦点と課題

週1日の登校で、働きながら高校を卒業する。ライトシップ高等学院の挑戦は、多様な学びの選択肢を示す画期的な一歩です。このモデルは、生徒に経済的自立と社会で生きる自信を与え、企業には未来の担い手をもたらす可能性を秘めています。しかし、この仕組みが全国に広がるためには、生徒を受け入れる企業の継続的な開拓や、学習と仕事の両立を支えるサポート体制の質の維持といった課題も残ります。鍵を握るのは、教育機関の情熱だけでなく、地域社会全体の理解と協力です。この新潟から始まる小さな灯火が、日本の教育システム全体を照らす大きな光となるのか。その挑戦の行方に、今、注目が集まっています。