7割がストレス実感、でも6割は「誰にも相談しない」 なぜSOSを出せないのか？見過ごされる職場の限界

衝撃の1,000件超え。数字が暴く「心の労災」の現実

私たちの働き方が静かに限界を迎えつつあるのかもしれません。最新の調査結果は、現代の職場が抱えるストレス問題の深刻さを、かつてないほど明確な数字で突きつけています。もはやこれは、一部の人の問題ではなく、社会全体で向き合うべき課題と言えるでしょう。

ついに大台を突破した「精神障害」による労災

厚生労働省が公表した2025年版の「過労死等防止対策白書」の内容は衝撃的でした。精神障害による労災の支給決定件数が、調査開始以来初めて1,000件の大台を突破したのです。これは、仕事が原因で心の健康を損ない、公的に「労働災害」と認定されたケースが過去最多になったことを意味します。この数字の裏には、認定に至らなかった数多くのケースや、そもそも申請すらできていない人々がいることを考えると、氷山の一角に過ぎないのかもしれません。

7割が実感、でも6割は沈黙。データが示す「言えない」現実

問題の根深さは、別の調査からも浮かび上がります。ある民間調査によれば、働く人の約7割が、仕事に関して何らかのストレスを実感していると回答しました。多くの人が心身に不調のサインを感じながら働いているのです。しかし、驚くべきはその次です。ストレスを感じた際にどうするかという問いに対し、実に6割以上の人が「誰にも相談しない」と答えています。多くの人が悩みを抱えながらも、それを誰にも打ち明けられず、一人で耐え忍んでいる。この巨大なギャップこそが、現代の職場が抱える最も深刻な問題の一つなのです。では、なぜこれほど多くの人が声を上げられないのでしょうか？特に深刻なのが、これからの社会を担う若者世代です。

なぜSOSを出せないのか？評価を恐れる若者たちの胸の内

「相談したら、やる気がないと思われるかもしれない」「キャリアに傷がつくのではないか」。そんな不安が、助けを求める声を阻んでいます。特に、キャリアの初期段階にいる若手社員ほど、そのプレッシャーは大きいようです。組織への期待感が薄れつつある現状も、この問題をさらに複雑にしています。

「評価が下がる…」20代の強い抵抗感

ある調査では、職場のメンタルヘルス不調について、職場に相談することへの抵抗感を年代別に比較しました。その結果、20代の若手社員が他のどの年代よりも強い抵抗を感じていることが明らかになったのです。その背景には、「不調を打ち明けることで人事評価に悪影響が出るのではないか」「周囲から偏見の目で見られるのではないか」という強い懸念があります。キャリア形成の重要な時期だからこそ、将来への不安が「相談しない」という選択をさせてしまう。この構造が、若者を孤立へと追い込んでいます。

4割が経験する「燃え尽き」と組織への不信感

こうした状況が続けば、心身が消耗しきってしまうのは当然かもしれません。正社員を対象とした別の調査では、約4割もの人が「燃え尽き症候群（バーンアウト）」を経験したことがあると回答しています。燃え尽き症候群は、強い責任感や意欲を持っていた人ほど陥りやすいとされ、個人の問題として片付けられがちです。しかし、注目すべきは、職場にどのようなサポートを期待するかという問いに対し、「特に期待しない」という回答が最多だったこと。これは、もはや従業員が組織に対してサポートを求める気力すら失い、信頼関係そのものが希薄になっている可能性を示唆しています。しかし、この問題は個人の弱さや世代間のギャップだけで片付けられるものではありません。

「個人の弱さ」ではない。本当に変えるべきは何か？

「ストレスに弱い」「もっと精神的に強くならなければ」。私たちはつい、心の不調を個人の責任にしてしまいがちです。しかし、多くの人が同じように声を上げられないのだとしたら、問題の根源は個人ではなく、それを取り巻く環境、つまり「組織」にあるのではないでしょうか。悪循環を断ち切る鍵は、組織文化の変革にあります。

相談を阻む「組織文化」という見えない壁

ストレス問題の背景には、個人の弱さではなく、相談しにくい組織文化や、不調を言い出すことが不利益につながりかねない評価制度といった、構造的な課題が横たわっています。過度な成果主義、失敗を許さない風土、同僚との過剰な競争。こうした環境では、自分の弱さを見せることは「負け」を意味します。結果として、従業員は仮面をかぶり、無理を重ね、静かに疲弊していくのです。つまり、ストレスは「症状」であり、その「病根」は組織文化にあると言えます。この根本原因にメスを入れない限り、いくら個人にセルフケアを呼びかけても、問題の解決には至りません。

求められる「心理的安全性」という土壌

では、どうすればこの壁を壊せるのでしょうか。今、多くの専門家が指摘するのが「心理的安全性」の確保です。これは、組織の中で誰もが「こんなことを言っても拒絶されない」「失敗しても非難されない」と安心して感じられる状態を指します。具体的には、上司が部下の意見に耳を傾ける「傾聴の姿勢」を示したり、失敗を学びの機会として捉える文化を醸成したり、メンタルヘルスリテラシーを高める研修を実施したりすることが有効です。安心してSOSを出せる土壌があって初めて、個人は本来のパフォーマンスを発揮できるのです。

これからどうなる？SOSが届く社会への道筋

精神障害による労災1,000件超えという数字は、もはや見過ごすことのできない警告です。この問題は個人の責任ではなく、組織、ひいては社会全体の課題です。鍵を握るのは、失敗や弱さを開示しても罰せられない「心理的安全性」をいかに構築するか。これが、従業員の健康と企業の持続的な成長の両立を実現する唯一の道と言えるでしょう。あなたの職場は、安心して「助けて」と言える場所ですか？この問いに真摯に向き合うことから、変化は始まります。